2009年12月22日火曜日

不況の時代の高速道路

ポルトガル全国内の高速道路を管理している会社「BRISA」の社内パーティにてヴァイオリニストとの演奏に招かれた。観光の名所「シントラ」のど真ん中にある、市指定建築物と思われる「ポンバル宮殿」での催しだった。アウトバーンの高い使用料を払わさせている、あの会社のトップを集めたパーティーとあって、かなり豪華なものだった。

宮殿は18世紀のものと思われる美しい建物で、門をくぐってすぐ大きな石畳の庭があり、らせん階段を上って館内に入る。19、20世紀初めの家財や絵画は美術館で目にするような驚くほど素晴らしいものばかりで、高さ2メートルはあるかという、フリーメイソンのモティーフがちらばる置き時計も見られる。床にはどこもぎっしりペルシャ風のじゅうたんが敷かれている。40平方メートルはあろう部屋が4,5室あり、僕らの演奏に使われた30席ほどの「客席」があるホール、さらに階段を登って歓談室、会食用の小ホールへと続く。中庭を通じて向こう側の建物はやはり2階あり、下の階はレストランの調理場を思わせる大きなキッチン、上の階は何部屋もあるが、どうやら使用人専用に使われているようだ。要するに建物内の仕切りも19世紀のままで、メイド・使用人用と家の主人が暮らす場所は分離されている。

話を聞くと、この格調高い「ポンバル宮殿」は、「BRISA」のトップの一人の私財だという。要するに社長氏の「御自宅」だ。驚かされたのが20名ほどの使用人で、まさか年中雇用ではなく、このパーティーのために集められたのだろうが、みな蝶ネクタイ付きのユニフォームを着ており、白手袋をはめてキビキビ仕事をしている。スタッフ全体が、テーブルのサービスとはまさに神に仕える行為である、という哲学を持っているかのようだ。キッチンには作業着を身に付けたメイドさんがおり、姿は見えなかったが料理人チームも別にいるかもしれない。その様子はまさに5つ星ホテルのようでもあり、映画「風と共に去りぬ」に出てくるような使用人付きの家そのものだ。門外にはネクタイ、スーツ姿の「見張り役」が4人もいた。

オーストリアでも住みこみ使用人付きの家は少なからずあるが、ポルトガルでは使用人が制服を着ていたりしてさらに厳格な貧富の差があるように感じる。中流階級の家庭でも「小使用人」の雇用を望む人が多いが、家の掃除は自分で行うものと教えられてきた人間にとってはヨーロッパ19世紀の名残にしか思えず、そういう考えはどうもなじまない。

この富裕層の方々は、ひと昔の慣習を今でもそのまま実践している人たちで、現今の不況には全く無縁に見える。もっとも、お金が多少不足したら雇用者に払わなければいいわけで、この催しの一人の使用人だった自分のギャラについては「一月後」と難なく言い渡されてしまった。この階級の人たちの「後払い」の習慣は最近よく聞く話である。

このパーティーが会社の経費として落されているのかわからないが、どうせならヴァイオリンとピアノのデュオではなく、弦楽オーケストラでも雇ってほしかった。個人の価値観の違いもあるが、そこに経済不況への対策が映し出されているような気がして、この先不安な気持ちになる。

0 件のコメント: