息子の心臓疾患は一般的に完治せず、後遺症や合併症などの可能性がいつでもあり、見事に成功したジャテネ・スイッチ手術も「根治手術」と呼ばれていて、「完治」とは微妙にニュアンスが違っている。これから病院に頻繁に通い、医師団から定められた通りの薬を毎日服用し、同じ病気を持っている人たちからのアドバイスや生き方を参考にして息子を育てていかないといけなくなった。今まで、レールに乗った人生とか、ひとから指定された通りに行動するのが嫌いで逃げてきた自分にとっては何という皮肉だろうか。
大変お世話になったサンタクルス病院には、家から車で10分の距離で当たり前のように自宅から通っていたが、小児心臓外科の他の患者さんらはポルトガル全国各地から送られていることに気がついた。隣にいた女の子の赤ちゃんは300キロ離れたポルトから、違う部屋の男の子は1000キロ以上も離れたアソーレス島から、息子の退院の日にやってきた赤ちゃんはポルトガル最北のブラガンサからわざわざこちらまで来ていた。ヘリコプターで運ばれてきたのだろうか。そういう様子を見ていると、最高の病院で優秀な医師団から即急に手術を受けられたことは幸運だった。感謝しきれない。
いずれにしても、生活は一気に希望に満ちたものになった。様子を見ていると、とても数日前までは生命の危機にあった赤ん坊には見えない。胸にはしっかりと、縦に15センチほどの切開手術の痕があるが、それ以外はいたって普通の元気な赤ちゃんである。生まれてから退院までの日々の出来事は、それまでの生活から全く切り離された、別次元の世界に一気に放りこまれたようだった。しばらく心の片隅にしまっておきたい。
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