勤務先のオペラ劇場はリスボン市中心のシアドにあるので、レストランやカフェが数多くありランチタイムには行き先を自由に選べる。ただ手頃な値段でおいしく食べられるところはなかなかなく、というのもたいていのところは投げやりなひどい料理をだす。数多いカフェでも昼の時間帯に限ってこの国の習慣なのか、当然のように食事のメニューを出すが、そういうところでもなかなかおいしい食事には巡り会えない。
昼の休憩時間は限られているので、手軽に、速く、おいしいものをとなると選択肢はかなり限られてくる。手早く食事を済ませられるイタリアンは何軒かあるが、それもすべて安くておいしいところとはいい難い。近くの病院や警察の社員食堂では安いがおいしいランチは期待できない。
リスボンのコメルシオ広場からすぐの「パウロのカステラ」はその名の通り、主にカステラを中心にしたケーキ類の製造、販売をするおしゃれなカフェだが、やはりほかのカフェと同様平日ランチタイムには少なくとも2種類の料理を出している。日替わりメニューで、ほかの店ではお目にかかれないポルトガル伝統料理をベースにした創作レシピ、カレーライスやかき揚げ天ぷらと言った日本の一般的な家庭料理などを5−7ユーロほどでおいしくいただける。そういうことで、劇場から徒歩10分の距離のこのカフェに何度も通わせてもらった。
本職はケーキ屋さん、という色を前面に出していて、パウロ氏の創作ケーキを日替わりで3、4種類出している。日本でよく食べる甘さを控えめにしたようなケーキに一工夫加えていて、とても充実したものだ。値段は2,8ユーロで、このレベルのケーキは少なくともリスボン市内ではずば抜けている。
25席ほどの小さい店内は常に満席だ。中高年女性に常連客が多いようで、おしゃれに装飾された店内もメニューの内容もそういった年齢層に合わせているようだ。そういう女性方は皆「日本食をおしゃれに食べたい」人たちらしく、優雅な容姿の方々でヘビー級の人はまずお目にかかれない。そういうお客さんへの対応なのか、食事は見た目はきれいだが量がかなり少ない。前途のかき揚げてんぷらはどんぶりのご飯の上に乗っているが、ご飯の量は茶碗で半杯くらい、小さいエビ3、4個、野菜少々でご飯がちょうど隠れるくらいと言った感じだ。カレーライスは毎回ヴァリエーションがあり、ひき肉を使っているときもある。
金曜日は人気メニューという和風ハンバーグが出る。手のひらサイズが2つにお茶碗にごく軽くご飯が一杯、少々のサラダで6ユーロほど。味付けはしょうがにうす甘醤油という、日本で一般的なもの。柔らかく焼かれているのはいいが、合い挽きの肉に生焼けはちょっと残念なところ。
量が少ない、というのは劇場のすぐ近くのオーストリア人学生3人が共同経営している「Kaffeehaus」でも同じで、驚くほどのミニサイズの料理に立派な値段がついてくる。食べ終わるのに2分とかからないという量は間違いではないかと思うくらいだ。何年ぶりかに再会したオーストリアのビール「Zipfer」も見たことのないような200ccのビンに3ユーロというので驚かされた。
量で満足できずその店を避けるようになるのは、自分の恥ずべき性分であるかもしれないが、とりあえず「パウロのカステラ」ではそういう理由で常連客が離れていく感じはなさそうな人気ぶりである。スタッフの方々には、多忙すぎて高いレベルが落ちていくことがないよう、望むばかりである。