今夏の滞在先はセイアseiaという、serra da estrelaという国有自然保護地のある山岳地区にある小さなまちで、そこからは車で1000、2000メートル級の山の村へ30分以内で行ける。
もともと、山の村には憧れていることもあるが、3歳半になる息子は普段、週末に どこにいく? という問いに「山(自宅は海から徒歩5分にある)」と決まって答える。
今回で山とは何か、幼い息子にとって本格的に体験できることになった。
山は素晴らしい眺めで、村は数多くある。たいていの村は古代ローマ時代から存在し、遺跡も立派に残っている。
山間部には小川が何カ所に流れ、周辺の自然は素晴らしい。それは虚構ではない、人の文化や感情を超えた、異次元のもので、それに接することができるのは実に幸せだ。
観光については、異国人としての生活が長い自分には、どういう視点で人に伝えたらいいかわからないし、普遍的な歴史の知識も恥ずかしいくらい乏しい。自分には、旅行先では人と、当地の食事に目が行くばかりである。
この時期、夏に休暇には国内の人口より多いと言われる、国外在住のポルトガル人の帰省が目立つ。戦後、特に旧植民地の独立戦争後から始まったと言われる、出稼ぎは主にルクセンブルグ、フランス、ドイツ、スイスを目的地に、ヨーロッパではごく普通に職業として成り立つ一般家庭、または企業の掃除人、レストラン勤務などの、いわゆる底辺の職業を自ら選んで、本国の平均収入の何倍も稼いだ。
その第一世代、ブラジル式にいえば「一世」は、年金受領の年齢に達し、祖国へ戻って、立派な家を立て大きな車を乗り回す、といった夢を実現させている。それは小さな出世物語であり、未だにヨーロッパの最貧国の一つに数えられるポルトガルの国に対して誇示する、成金物語である。彼らの館は、何処かにそういう表現があるので、自分の目にもすぐ区別できる。
その息子たち、「二世」は、小さい子供「三世」を連れ、2000、3000キロの距離をわざわざメルセデスに乗って親の館に帰ってくる。 この周辺のレストランは、主にこういうemigrante(移民)といわれる、在外ポルトガル人を客にしている。要するに、伝統的メニューでありながら、中央ヨーロッパの趣味を取り入れ、そして誇り高き移民のエゴを充たすサービスをしないといけない。 それは自分にとっては大変な好都合である。 セイアの真ん中にある、borgesというレストランはそういった要素を充たす、いいレストランであった。 食べたのは、オーストリアでよく食べた、stelzeに似た豚肉料理。ポルトガル料理といっても違和感のない、好感の持てるメインディッシュであった。 聞くところによると、このborgesのオーナーは元フランス在住のポルトガル移民であるという。 なるほど。 レストラン内は、非常に上品な装飾で、サービスも本格的である。いつ行ってもまず間違えのないレベルだろう。