自分にとってのテレビ出演は大体いつも同じ調子である。まず、その日のために何か月前から準備するようなことはなく、話は突然降ってくる。そしてノーギャラである。自分のような身分のクラシックの音楽家にとっては、何千万という人が視聴する番組にはこちらからお金を払ってでも出たいくらいのものである。
演奏自体はこの自分の技量では今回も危ない場面があったが、何とか最後までごく普通にたどり着けた。ミスしそうになる状況ではこれで自分も一巻の終わりか、ということで頭がいっぱいになり、そういう心境は至高な音楽を演奏する芸術家にはほど遠い。指揮をする場合は演奏家を前にしているだけにそういうネガティヴな心境にはまずならないのだが、ピアノを弾くときは演奏する場が重ければ重いほど、よけいなことで頭がいっぱいになる。
想像するに、もし万人を前に自分の料理を披露することになってしまったら、震える手を披露してしまうであろう小心者である。某国代表のサッカー選手は、男は誰に何を言われようが自らの拳で自分の運命をつかみにいくのだというようなことを語っていたが、この我が人生を切り開いていくべき手はいざというときは銅像のように重く固くなってしまうのでなく、そういう時こそ勝手気ままに躍動してほしいものである。
出演が終わったあと、早速2人の友人から電話がかかってきた。いずれもテレビで見たよと、向こうの方がよけいに喜んでくれている。その一時は思いかけず誰もを幸せにさせてくれ、改めてテレビが持つ影響力を思い知らされる。
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