2011年6月12日日曜日

カルメン!

世界の劇場のどこかでは、毎日カルメンが上演されている、という。先日はこちらリスボンでカルメンの初日があった。カルメンしか歌わない、というスペシャリスト歌手と高音域が常に危ないが、テレビ「MEZZO」にもジョゼ役で出てくる高名なテノール歌手との共演はまれに見る、オペラ好きの人にはたまらないキャストであったのかもしれない。演出がいわゆる「Regietheater」そのもので、クラシックな舞台を求めている人には退屈なカルメンだった。
ふと思うが、オペラ歌手の人たちは自分がどう歌うか、よりもどういう演技をするか、ということに意識が集中している気がする。彼らにとってはオペラというものは役者として演技するもの、である。ただいつも見ていて思うのは、正直に言って、演技というものを歌と同じように勉強してこなかったのでは、ということだ。
いつも端から見ている自分には歌の場合は何がよくないのか、どうするべきなのかはだいたい分析できるが、演技の方は何となく「よい」「よくない」ことしかわからない。
たいていの「Regietheater」の演出の先生は歌手がどう歌うか気にしないので、1ヶ月以上の舞台稽古では歌の意識は薄れるばかりである。ましてはキャストの選考でも演出の先生が主導権を握るので、まず演技ができる人、できそうな人から順番に選ばれる気がする。
今回のカルメンは、確かに演技はすばらしくできる人のように思える。歌は初日になって、必要性にかられ、初めて「ちゃんと」歌ったようだ。ジョゼ役の人は、上背があり筋肉質で、それに何となく悲劇的な雰囲気があり役にぴったりかもしれない。歌の方は技術的な問題なのか、テノールの生命線である高音域がしっかりできない。致命的なことだと思うのだが、さていったいお金を払って見に来ているお客さんはどういうものを見たいのか、意識する人はいるのだろうか。