アレンテージョ州の中心都市エヴォラでは、さすがにそこの伝統料理を食べるべきであって、旅行者向けのレストランはどこも同じようなメニューを出している。豚、アサリとフライポテトが合体した「アレンテージョ風豚肉(直訳」、アスパラガス入りの「ミガス(残りのパンをニンニクとブイヨンに浸して、卵と混ぜて蒸して固めたもの、オーストリア風にいえばTaschenknoedlのようなもの)」はどこにも必ずある。はっきり言って、あまりおいしいものではない。
そういう街の中で、ドン・ジョアキンDom Joaquimという、普通の店とは一線を引く、かなりまともなレストランをみつけた。3年ほど前、ヨメとたまたま入って「黒豚のヒレ肉とオレンジ」と言うのを食べて、かなり感激した。黒豚はイベリア半島が産地で、普通の豚に比べて脂分がかなり多く、味は非常にコクがある。そのプロシュート、生ハムは非常においしいものだ。
またスペインではそのヒレ肉を血もしたたる半生で食べたりするのだが、「ドン・ジョアキン」では前述の「ミガス」を包むようにしてオーブンで焼いており、創作料理ながらアレンテージョのアイデンティティを前面に出した、おいしいものであった。いつかまた行きたい、と思ってはいたが、あまり短時間で食べられるところではなく、食事が終わるころにはシェフのジョアキンさんがじきじきテーブルを回って常連さんと会話をされるくらいのところだから、レストランの内装にも、食器にも、アぺリティーヴォにもすべてジョアキンシェフの強い心意気が感じられる。ここではゆったりとリラックスして食べるべきであって、大学の休み時間を利用できるところではない。
今回、連日の仕事があってエヴォラに泊ることになったのでその日の夕食は久しぶりに「ドン・ジョアキン」で存分に楽しむことにした。
値段は、普段の2,3倍は計算しておくべきだが、料理は普段お目にかかれる物ではなく、それでも13,4ユーロとそんなにものすごく高いものでもない。量もかなり多く、普通は1品を2人で食べてちょうどいいくらいである。
アぺリティーヴォも初めから3,4種類出てきて、おいしいパンも付いてくるのでそういうものを食べているとお値段も方もどんどん上がって普段の3倍になってくる。
ワインのメニューもアレンテージョ色を出した、充実したものだ。
今回は「本日のお薦め」に黒豚のヒレがあったので、また頼むことにした。今回はオレンジでなく、ソースは蜂蜜、それにミントのリゾットが付いてくる。ご飯にミントの葉を混ぜるのは自分も家で何度がつくってそれにトルコ風にレモンまでかけてみたりしてさっぱりした感じになるが、ジョアキン氏のはミントを混ぜただけのアルデンテのかなりシンプルなもの。残念だったのは、ソースがかかった黒豚のヒレ肉と同じお皿に飾られて、食べていくうちにご飯は蜂蜜ソースに混ざってしまうありさまだった。
黒豚は今回はミガスは包まれておらず、3センチほど分厚く切られており、深い茶色のソースとも見事にマッチした、シンプルにおいしいものだった。それが5切れほどあった。ソースもおいしく、最後はパンですくっていただいた。そうやってお皿を磨くようにするのはソースがおいしかった、という表現にもなりうるのだが、ここポルトガルではイタリアやフランスでは普通のこともあまり上品なものではないという。
デザートにはやはりジョアキン氏の創作でウィーンの「Nusstorte」に似ていて、スポンジとナッツクリームと交互に何段重ねになっているもの。ジョアキン氏はさらにクリーム部分に卵黄クリームを使い、それもアレンテージョ特有のものであるから、この「Nusstorte」もアレンテージョのアイデンティティを忘れさせない。こういったアイディアには大いに好感が持てる。
そのケーキにはシェフ創作のアイスをつけてもらった。蜂蜜とオリーブオイルのアイスということで、これも独特でなかなかおいしかった。ただ、ところどころ氷のうすい層があって、「ガリッ」と噛みつぶすことになる。昔知り合ったフランス料理のシェフが話していたが、アイスというものは手間のかかるもので、毎日残りを火にかけて一度溶かしてまたアイスにしないといけない、そうしないとどうしても氷の層ができる、と。
ウェイターのサービスも応対も良く、ワインやデザートはそのウェイターに選んでもらった。結果的に今回のメニューは蜂蜜ソースの黒豚に蜂蜜入りのケーキ、蜂蜜アイスということになり、偶然だったが見事なラインになった。
エヴォラに行く、という人たちには、必ずドン・ジョアキンのことを話す。ただ旅行者にはゆったりしすぎて日帰りの人には向かないかもしれない。自分にとっては、いつでも戻ってきたいレストランの一つだ。
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